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――――王宮
「ふふ…兄様、くすぐったいよ」
朝から、兄にくすぐられて(アルダフェズルにとっては愛撫)ロキはころころと笑い声を零した。
「くすぐったいだけか?ん?」
「んもぅ!エロ親父!」
互いに生まれたままの姿で抱き合う。
二人の唇が重なろうとしたその時…。
―――ばぁぁぁん!
けたましい音と共に、皇帝・アルダフェズルの寝室が開いた。
「何朝っぱらからいちゃこらこいてんですかっ!職務の時間ですよっ!」
乱入して来たガルムは、つかつかと歩み寄るとアルダフェズルの耳を引っ張り大声で叫んだ。
ちなみにロキはとっさに耳を塞いだ為、難を逃れている。
―――きーーーーん―――!
「ガ、ガルム…いまからイイとこ…ろ」
「蜜月も分かりますけどね!職務して下さい、アル!」
綺麗な顔に睨み付けられる。
「アルがロキと会って息消沈していた間にも、仕事は山積みなんです!私は軍師であって、あなのた秘書なんぞじゃありません!」
似たようなものじゃないかというアルダフェズルの言葉は無視された。
「さっさと仕事する!」
「あでででで…!」
耳を引っ張られ、ベッドから引き摺り下ろされた兄を見て、ロキがにっこりと笑った。
「ちゃんと服を着てから、お仕事してね」
この二十年でたくましくなってしまった弟に、兄は…。
(お兄ちゃん、悲しい…クスン)
あの、アルダフェズルの「俺も出て行く」発言の結果は、これだった。
アルダフェズルの正妃として、ロキを迎え入れること。
これは、ガルムが…そしてレグルスがも勧めた結果であった。
そして、アルダフェズルは皇帝としてそのまま残り、ロキはそのまま正室として迎え入れた。
それと同時に、『創生師』をアルファズル帝国内に留めておく為でもある。
今、ロキが唯一の『創生師』だとこの暗黒界に知らぬものはいない。
ロキがアルダフェズルの実弟にして妻でなければ、今ごろロキはどこぞの国か個人に囚われていただろう。
アルダフェズルの実弟にして妻だからこそ、ロキに直接手を出そうとする者はいない。
何故なら、ロキに手を出す…すなわち、大帝国アルファズルを敵にまわすと言うことだ。
国家は元より、個人に至ってはそんなバカげた考えをおこす者などいない。
+++++
「レグルス、具合どう?」
昔と同じ部屋に自室を残されていたレグルスは、ベッドに置き上がってロキを迎え入れた。
「ちょっ…と…ガルムと、ケンカした」
「んっもう!なんかあると直ぐケンカするんだから」
昔からそうだった。
アルダフェズルとレグルス、そしてガルムは何かあるたびにケンカをした。ケンカをするほど仲が良いとはよく言ったものである。
「ロキ…ちょっと【ヴィーザル】が、刃こぼれしたんだが…」
それは、ロキが創りあげたファルシオン、【焔のヴィーザル】の事だ。
「…刃こぼれ?何したの?」
「いや…」
レグルスが苦笑する。
「ガルムが防御結界を張って」
「それを破ろうとしたの?ガルムの防御結界は帝国随一だよ」
ははは…と渇いた笑みが浮かぶ。
「第一形態でやっちまったからさ。【ヴィーザル】が怒って…」
「もう。貸してみて」
そう言われて、レグルスはベッドの隣に立てかけてあった剣をロキに手渡した。
それを受け取ると、ロキは上着を脱ぎ始める。
現れた肌には、アルダフェズルの所有の刻印が…。
「凄いな…」
レグスルガ今度は、違う意味で苦笑した。
「ガルムが蜜月だって。兄様、なんだか益々甘くなったみたい」
言えてると、レグルスが笑う。
「さぁ…。良い子だね」
ロキはそう言い、【焔のヴィーザル】が宙に浮かんだ。
そして、ロキの白百合の刻印から淡い白い光を発酵する球体が現れ【焔のヴィーザル】を完全に包み込んでしまう。
それを、翼を広げ宙に浮いたロキは抱きしめた。
「さあ、良い子。ゆっくり癒されなさい。創生師、ロキの腕の中で」
暫くその時間が続いた。
そして、ロキはその腕を離すと床へと降り立ち、そして光の球体も消え【焔のヴィーザル】が短剣としてロキ腕の中に収まった。
「携帯に便利なように縮めておいたけど」
「ああ、ありがとう」
それを、レグルスは受け取る。
白百合は聖母の象徴。
聖母。
しかし、それは違った。
生母、だったのだ。
ロキのその刻印は、創生師…生母としての刻印だったのだ。
「驚いたな」
声がしたほうを振り向くと、入り口にアルダフェズルが立っていた。
「レグルスの様子を見に来たんだが…。それが『創生師』の力か」
アルダフェズルが、『創生師』としてのロキを見るのは初めてだ。
「あの程度の傷なら、簡単に治せるけれど…」
ロキが服を着ながら微笑む。
「創り出すのは、ちょっと時間がかかるね。三日ぐらい付きっきりで一人閉じ篭っていないとできない」
「そうか」
「うん。あ、あとで兄様の【漆黒の脅威】と凛の【闇のヴェルザンディ】も癒してあげる。随分くたびれているみたいだったから」
つかつかと歩み寄るアルダフェズルに、ロキはにっこりと微笑みかけた…が。
「レグルスっ!」
「はい?」
とたんに大声で怒鳴った。
「ロキの裸を見るとは何たる不届き者っ!成敗してくれる!天誅ーーー!」
「アホかーーー!」
【漆黒の脅威】を振り上げたアルダフェズルに、ロキがペシッと頭をはたいた。
「ロ、ロキィ〜〜〜」
「アホかっ!兄様はっ!」
「だって、だって!ロキの裸を見ても良いのは、俺だけだもん!」
(皇帝・アルダフェズルが壊れた…)
レグルスは、思わずにはいられなかった。
「あのねっ!刻印を露出させないと、『創生』はできないの」
「いやぁぁ!お願いだから、人前ではしないでくれっ!」
「……それは、俺も思う」
うんうんと、レグルスが呟く。
「アルのキスマークだらけの肌を、そこらへんで曝すのはどうかと思うぞ。王宮のどこかに…作業場作ったらどうだ?」
「あ、俺、それ欲しいと思った!」
ロキが叫ぶと。
「よしっ!早速命じてくる!」
だぁぁぁーーー!と、アルダフェズルが風のように走り去って行く。
「なぁ…ロキ」
残された二人はというと。
「……アルダフェズルって、あんなキャラだっけ?」
「違ったと思うけど……」
ぽかんとしたまま、開け放たれたドアを見つめ続けた。
「ねぇ…」
「ん?」
「……俺、ちょっと間違えたかな…兄様の教育」
「うん。激しく」
ドアを見つめたまま。
「凛達だけはまっとうに育てよう……」
「ヘルも交えて、あのアルの子だから…まっとうは絶対に無理」
強調するレグルスに、そうだね…とロキは遠い瞳をした。
END.
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