愛の巣へ落ちろ! 




プロローグ

きっかけは偶然見たテレビ番組だった。
そのころ俺は狭い団地の一室に閉じ込められていて、同級生の連中が学校に通っている午後、部屋の窓からもううんざりするほど見上げた真四角の空ばかり眺めていた。空を飛んでいく鳥を見ていると、いつも胸が締め付けられるほどうらやましかった。
俺だって自由になりたい、
自由になりたい、
自由になりたい。
テレビに映る、全寮生男子校の取材番組。
シジミチョウ科出身の俺には縁のない、超ハイクラスのエリートばかりが集まる学校。
だけれど、過去には一度、シジミチョウ科のベニシジミが特別奨学生枠で入って、首席で卒業したんですよ、取材を受けた生徒の一人が、にこやかに語る内容に惹きこまれた。
鳥喰い蜘蛛やオオカブト、カマキリにベッコウバチ。ハイクラスばかりの学校で、完全にロウクラスのシジミチョウが首席?
画面に映る学生たちはみんな体格も良くて、自信に満ちあふれている。
なかでも、メキシカンレッドニー・タランチュラの生徒が映し出された時、俺は思わず画面に釘付けになった。
すらりと伸びた長身に、広い肩幅。男らしい体躯。額にかかる黒髪は、陽光を受けると赤みがかる。見るものを射抜くように強い琥珀色の瞳、まるで芸術品みたいに完璧な美貌。画面を通して伝わってくる、ハイクラスの中でも選ばれたトップ層に君臨する、タランチュラの厳かな威厳。
本当にこれが、俺とたった二歳しか違わない男のもの?
取材している女性リポーターが半ば上ずった声で、レッドニーの学生にインタビューする。
『あらゆる方面において恵まれていることについて、自分ではやっぱり幸運だったと思う?』
レッドニータランチュラは琥珀の瞳を細めて、肉厚の男らしい唇から、澄んだバリトンで答えた。
『恵まれているかどうかはただの境遇であって幸運とは関係ない。幸運な人間というのは、満足できる人生を自分で切り開くヤツのことだ』
決め付ける言葉にリポーターは一瞬たじろいだ。
でも俺の中では何かが弾けた。
俺だって、
俺だって自由になりたい自由になりたい、
自由になりたい。
明日死んでしまってもいい。
自分で選んだ人生だったと、自信が持てるのならば。


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