四
どうしようどうしようどうしよーーーーーっ
(って考えても動けねぇし!)
ねばねばに絡まりながら、翼は自問自答した。
情事はひと段落したらしい。喘ぎ声がぱたりと止んだ。やがて部屋の扉を開けて人の入ってくる気配がある。
「澄也、次はいつ相手してくれる?」
「気が向けば」
「もう、つれないんだから」
そこがいいんだけどね、と付け加える声が遠ざかり、頭の上で電気がパッと灯る。
翼が央太と使っている部屋をそのまま一人部屋にしたくらいの広さ。セミダブルのベッド、勉強机のほかに二人掛けのソファが置いてあり、ロウテーブルの上にはどう見てもワイン、
(寮に酒は持ち込み禁止だろ!)
煙草と灰皿、
(煙草もご法度だろ!)
コンドーム……の箱。
(…と、あれ何だろ? チョコレート? 甘党…なのかな)
中学にほとんど行っていない翼には、コンドームの知識はあっても、箱を見てすぐそれだと分かるだけのカンがない。
バタン。
背後で扉が閉まる。頭の後ろがひやっとする。
翼を絡めとる粘着質な糸がぐいっと引っ張られた。
「うあっ」
壁に張っていた網が突然ほどける。翼は頭から床に投げ出され、解放された糸は勢いよく縮んで翼の体に巻き戻った。気がつくと翼の体は縄のような糸でぐるぐる巻きにされ、床で蓑虫状態になっていた。
「……」
首だけ動かして見ると、翼をまたいで奥のソファに腰を下ろした澄也が、煙草に火をつけているところだった。
開け放したシャツの隙間から、しなやかに鍛えられた澄也の胸板がのぞいている。程よく日に焼けた肌はうっすら汗ばんでいて、翼は澄也がさっきまで男を抱いていたことを思い出した。咽るような甘い香りは、今はこの部屋いっぱいに広がっている。翼の心臓が、なぜかドキドキと早鳴りはじめた。
「あの……先輩、これはずしてほしいんスけど…」
一応控えめに申し出た。
澄也は琥珀色の眼を細め、つまらない映画を見るみたいに翼を見ただけだった。
「すいませんけど、はずしてくれませんかッ」
大声で呼びかけても動く気配のない澄也に、翼もだんだん焦れてきた。
「あんたさあ! ゆーちょーに煙草吸ってるヒマあったら、これはずせよ! 俺、部屋に戻りたいんだよ!」
澄也は突然灰皿に煙草を押し付けて立ち上がった。
「いい度胸だな、お前。この俺の巣に自分からかかっておいて、はずせだと?」
ただでさえ長身の澄也を、床に這いつくばった姿勢で見上げると圧巻だった。
不意に肩を蹴られ、翼は仰向けに転がされた。反転しようとする間もなく、澄也の大きな足が翼の腹の上を押さえつける。これだけでもう、身動きできなくなった。
「そんなに俺に食われたいか?」
口の端で嗤われ、翼はムッとした。
「誰が好き好んで食べられるんだよ!」
「ほーう」
腹を押さえている澄也の足に、ぐっと力がこもる。翼は思わず咳き込んだ。
「じゃあなぜ、巣にかかった?」
「あんたがあんなこと、してるから悪いんだろっ」
言いながら、翼の頬がカアッと熱くなる。
「俺がどこで何をしようが勝手だろうが」
「廊下は公共の場所だ!」
「知らないのかお前。タランチュラはな、地べたで食事するものだ」
澄也は嗤って、いきなり翼の襟ぐりを掴んで引き上げた。
「……お前も食って…やろうか?」
わずかに息のこもった声が、甘かった。耳からぞくりと寒気を感じて、翼は身震いした。
「じょ、冗談じゃねえ。俺はまずい、絶対まずいから、やめとけ。お前だって、シジミチョウは嫌いだって言ってたろ」
食べるという意味を暴力か何かと思っている翼は、ぶんぶん首を横に振った。
澄也は小ばかにした笑みを浮かべて翼を見下ろしている。
「お前は食われたくないと言うんだな? この俺に」
「食われたいわけあるか!」
「そうか」
澄也の指が、翼をぐるぐる巻きにしている糸と糸の間に入る。そのまま、ぴっと上に持ち上がったとたん、あれほど強力に絡み付いていた糸が簡単にほどけた。
「ありが……う、あ!?」
翼は突然物凄い力で持ち上げられ、投げ出された。
落ちた先はベッド。
身を起すより早く、白い糸を何十本もつらねた縄状のものが両手首を束ねて縛り、両足首にも絡みつく。糸はそのままベッドの支柱に巻きつき、翼は手足をベッドに縫い付けられた。
澄也が翼の上に覆いかぶさり、鼻で嗤った。
「食い尽くしてやる。光栄に思え」
「ふざけん……んあッ」
口を開いた瞬間、澄也が翼の首筋にじわりと噛み付いた。
(えっ…ちょ、なに!?)
背筋がぶるっと震える。
噛まれたところから、痛みではない、甘いぞくぞくと走る寒気のようなものがじわっと広がった。下腹部にもじゅうっと熱がともる。
(え、ちょっと……なんだよ、これ…)
下腹部に集まった熱が、翼のペニスの先端と、尻の穴の奥でもぞもぞと動く感じ。
「……タランチュラは数種類の毒を使い分ける」
噛んだ痕をねとりと舐めながら、澄也がささやいた。澄んだバリトンに、首の裏がぞくぞくする。
「そのうち最もよく使うものが、媚毒だ。俺の歯の先から、お前の体に入り込む。……天国を見せてやる」
暴れようにも、体から力がぬけていく。澄也は半開きになった翼の口にキスして、前歯で甘く下唇を噛んだ。
「……は、」
思わず息がこぼれる。噛まれたところから、とたんに甘さが広がっていく。
体を起こした澄也が鼻で嗤い、翼の着ていたTシャツの裾をめくりあげた。白い胸が空気にさらされる。
「乳首は…朱鷺色か。遊んでないな」
指先でツンとつつかれ、翼は息を呑んだ。
「やめ…ッ、な、なんでそんなとこ…」
頬にかあっと血がのぼる。澄也の琥珀の眼が、まるで舐めるように乳首を見ている。そのことに、なぜか体が熱くなってくる。
(お、俺、ヘン……ッ)
「ふん、毒が回ってきたな。ちょうどいい、ここにも入れてやろう」
澄也は翼の乳首をくにっとこねた。とたんに背筋を駆ける、えも言われぬ感覚。ペニスの先端がきゅうっとなる。
不意に澄也の指先から白い糸がやわやわと伸びてきて、翼の両乳首に巻きついた。
「…あ、なに…」
「糸からも毒を刺せる。安心しろ、お前を縛る糸も、この糸も俺が作り出すものの中で最も柔かいものだ。俺はセックスで、相手を痛めつけるのは趣味じゃない」
「え、なに、セック……あっ、や…!」
巻きついた糸がきゅうきゅうと翼の乳首を刺激しはじめた。胸を反らし、翼は喘ぐ。やがてぷっくりと乳首が立ち上がり、その先端に、白い糸がからんだと思うと、甘くじんわり広がる熱が、乳首の先っぽから翼の全身へまわる。
「あっあぁ、なに…、これ……ぇッ、あん…っ」
(ちょ、ちょ…あんって何だよ俺! あんって!)
理性が突っ込みを入れるのに、声はとめようもなく漏れる。
「あ…だめ、も…さわん…な、ひゃうっ」
「見てみろ、お前の乳首はいやらしくたちあがっているぞ」
「あ…っ、あ……」
乱れた息のなかで、翼は反らした胸の上でたちあがったピンクの乳首が、いやらしく尖っているのを見た。
恥ずかしくて眼をつむる。でも同時に、ペニスが熱くなり、硬くなっていくのが分かる。
「あっ…やぁ……ンン!」
澄也が翼の胸に顔を寄せ、乳首を口に含んだ。舌先でくりくりと転がされ、翼は頭を振って喘いだ。
いつの間にかズボンも脱がされ、澄也の長い指が下着の中で硬くなっている翼のペニスをそっとなぞった。
「あっ! そこ…っ、さわんな…っ、あっ」
「濡れてるな。下着が湿ってるぞ」
嗤われ、目尻に涙がにじみそうになる。
「おまえが…っン、やらしいこと…す。はふ、するから…ふぁ」
「俺がやらしいことをした? 俺がお前の乳首をいじったからか? それでお前は乳首もペニスもおっ勃ててるのか」
「ひ、ひど……」
(なんで、ンなこと…言うんだよっ)
完璧に、いじめられているとしか思えない。
「ひゃっ」
翼は小さく叫んだ。澄也が翼のペニスを下着から取り出して握ったからだ。
「ここもきれいなものだ」
「あっああっ」
ペニスの先端を、親指の腹でおされる。精液がじゅわっとあふれ出る。くたっと力がぬけたとたん、太股に糸が絡み、翼の股は大きく開かれた。
「あ……ああ!?」
いきなり、信じられないところに柔らかな糸の束が侵入してくる。
「あっ…ちょ、なに、やだっ」
澄也の指先から生まれた糸束が、アナルの中に入ってきたのだ。糸束はぬめぬめと湿っている。内部で伸縮して、膨れるときにじゅうっと温かな媚毒を発し、同時にぬめった液体で翼の内部を濡らしながら、奥へ奥へと入り込む。
「うそ…っ、ちょ…、やめろ…っ」
力の入らない体で暴れようと身を捩じる。
「大丈夫だ、俺の食事がお前にとっても最小限の負担で済むようにしているだけだ。すぐに、気持ちよくなる……」
澄也に抑えられ、唇をふさがれた。
「ん…ふう」
熱い舌が翼の咥内に入り、歯の裏側から舌の腹までていねいに舐めていく。口の端から唾液がこぼれる。
乳首にからんだ糸はまだやわやわとうごめき、ペニスは澄也の指で先端を擦られている。まるでなだめるような擦り方。
アナルの中で伸縮していた糸は侵入をやめ、そこで緩く震え始めた。甘い痺れが下半身を多い、つま先がジンと熱くなる。アナルがきゅうっと締まるのが分かる。その瞬間、奥の一点が燃えるようにかっと熱くなる。
「んっんんんっ、ふぅんっ」
頭の奥でじりじりと焼かれていた糸が、急に焼ききれた。理性が遠くに押しやられていく。全身が熱して震えだし、尻がゆらゆらと揺れる。
(やだ、俺、どうして……)
でもだめだ。止まらない。脳の芯が痺れている。何がほしいのかも分からない、でももっと、もっと強いもの、もっと激しく深いものがほしい、奥に。
糸をきゅうっと締める。ペニスの裏側のあたりが、切ない痛みを感じる。
「大分濡れたな……ここに男が欲しくなってきたろう」
「ふ、はっ……あっ」
だめだ、もう抵抗できない。
澄也の指でアナルの入り口をつつかれ、甘い声が漏れてしまう。
肉孔の入り口は、澄也の指で押されるとぐしゅ、と濡れたものを染み出させる。
(ほし……ほしい、なんか、わかんないけど…すっごい、ほしい…っ)
熱くて大きくて硬いものがほしい。
(奥に、ほしい…っ)
羞恥が全身をつらぬいていく。
「ああ…んっ」
糸束がずるっと澄也のアナルから這い出る。その刺激だけで翼の尻はくいっとあがる。澄也の熱杭が入り口に押し付けられ、翼はぎゅっと眼をつむった。
「んん……ッ」
嬉しいのか怖いのか、体が大きく震えた。
「…あっ…、だめ、いた…っ、いたい…ッ」
糸束とは比べ物にならない、大きくて硬いものがわずかに侵入してきたとたん、アナルが引き裂かれるような痛みに、思わず下腹に力が入り、足が緊張で硬くなった。
「大丈夫だ、壊したりしない……すぐに気持ちよくなる」
澄也の囁く声が、優しかった。初めの頃の意地の悪さなんて、かけらもない。
宥めるように頭を撫でられ、こめかみにキスされた。痛みで潤んだ瞳を開けると、熱をともした琥珀の瞳がじっと翼を見つめている。
「せんぱ……は、ふ、」
荒れた息のなかで、澄也を呼ぶ。
「い、いた、痛くしねぇ……? ほんとに…?」
「言っただろう、痛めつけるのは趣味じゃない。……優しくしてやるから、安心しろ」
「う、うん…、せんぱ……」
優しく、ついばむように口付けられた。翼は腹を緩める。ゆっくりと澄也が入ってくる。勃ちあがった翼のペニスの先端からこぼれた精液が、腹の上に流れて臍に溜まる。
「ん、んふ……っ、んっ」
痛みで涙がこぼれる。澄也の手が翼の膝頭を撫でている。
(この人……優しい)
あんなに意地悪だったのに。翼が本当に痛がったら、まるで恋人にするように甘くなった。
澄也のペニスが全部入ると、腹の中は息苦しいほどいっぱいで、ちょっと力をこめると背筋全体に熱が走る。
「…は、ん……ちゃんと…入った…? …せんぱい…」
一瞬驚いたような顔をした澄也が、くっと苦笑した。意地の悪い冷笑じゃなくて、もっと、困ったような笑みだ。
ふと手の戒めが緩まり、ぱらっと解けた。
「俺の首に腕を回せるか? しがみついていろ。痛かったら、爪をたてていい」
翼は朦朧としたまま、澄也の首に腕を回す。顔が近くなり、眼が合うとこの状況がおかしくて、思わず微笑む。
そのとたん、なぜか自分の体から、花蜜のような甘い香りが空気に舞い上がるのが分かった。
(…なんだろ……これ…)
体の奥がきゅうに緩んだ気がする。アナルの痛みが抜けていき、かわりにうずうずした感じが戻ってきた。
「……お前、」
澄也が上ずった声を出したけれど、翼にはもう余裕がなかった。澄也の首っ玉にぎゅうっとかじりつくと、アナルの中がじゅくっと嬬動した。
「んっ……せんぱ、い」
「…動くぞ」
耳元で低く囁くバリトンに、腰が震える。
「はっ…あっ」
熱い肉茎がアナルの中を擦りながらズズッと抜ける。半ばまで抜けて、それからじゅぶっと奥に突き戻される。
はじめはゆっくり。翼の尻が揺れてくるにしたがい、その動きは激しく深くなる。
「あ…あっ、あっ、なに、これ…、あっヘン、俺、ヘン…ッ」
揺さぶられるたび、体の芯がきゅうきゅうと締まり、ぐちゅんっと音がたつ。
抜け出ていく時の切なさ、突き入れられた時の熱さ。
ペニスが最奥に達する直前に擦っていく一点。
その場所を刺激されると、焼かれるような快感が、翼の背骨にびりびりと伝わる。
澄也の頭を抱え込み、胸を反らして股を突き出し、翼ははしたないほどの格好でアナルをせめられていた。
「あ、ぁん…っ、やっ、あっあっあっ、だめぇ……」
(だめ、俺、だめだ、ヘン、すっごい、ヘンだって……ッ)
理性が叫ぶのに、体はもうがくがくと揺すられるまま、勃ったペニスから白濁したものがびゅくっびゅくっと飛ぶ。
「せんぱ、せんぱい、あ、だめっ、あ、あ、あ、はんっ」
「お前、名前は?」
翼の体を抱きこみ、尻孔に突き入れながら、澄也は翼の乳首を舐めた。
「やっ、あ…んっ、だめ、つばさ…はんっ」
「翼、か……」
つぶやきながら腰を突き入れられ、嵐の波のような快感が翼の敏感な部分を襲った。
「あっ、んっ、ああー!」
澄也の杭をぎゅうっと締め付けながら、翼は背を仰け反らして精を吐き出した。白い飛沫はびゅびゅびゅ、と勢いよく弾けて胸まで飛ぶ。瞬間、翼の腸内で澄也の熱いたぎりが射精した。
尻の中が湿り、腹が熱を持つ。打ち付けられる衝撃に震え、翼はくったりと両手をベッドに投げ出した。
びくっびくっと体が震え、視界が白く霞んでいく。深く穏やかな水底へゆっくり沈んでいくようだ。ふうっと力がぬけて、翼は眼を閉じた。